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津地方裁判所 平成8年(わ)42号 判決

裁判所書記官

石堂義隆

本籍並びに住居

三重県桑名郡長島町大字松蔭七六一番地

会社役員

岡村利夫

昭和六年九月三〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官菅弘一出席の上審理して、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金一五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、三重県桑名郡長島町大字松蔭七六一番地に居住し、農業を営むとともに自ら商品先物取引を行っていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、商品先物取引売買益などの雑所得を除外するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成三年分の実際の所得金額が、六四六一万二四九七円であり、これに対する源泉徴収税額(二三万三〇〇〇円)差引き後の所得税額が二七一二万一〇〇〇円であるのに、平成四年三月一〇日、三重県桑名市外堀二四番地桑名税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二八〇万八一九五円で、これに対する所得税額が七万〇三〇〇円、源泉徴収税額の還付額が一六万二七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、平成三年分の正規の所得税額との差額二七二八万三七〇〇円を免れ

第二  平成四年分の実際の所得金額が、一億三六七〇万〇六二二円であり、これに対する源泉徴収税額(四二三万七五〇二円)差引き後の所得税額が五八四九万一四〇〇円であるのに、平成五年三月一五日、前記桑名税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二〇六七万七四五五円で、これに対する所得税額が七五万六四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、平成四年分の正規の所得税額との差額五七七三万五〇〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  当公判廷における被告人の供述

一  記録中の証拠等関係カード(検察官請求分)甲1、3ないし7、14ないし32、乙1ないし9の各証拠

判示第一の事実につき

一  前同カード甲8ないし10の各証拠

判示第二の事実につき

一  前同カード甲2、11ないし13の各証拠

(法令の適用)

罰条 判示各事実 所得税法二三八条一項、二項

刑種の選択(判示各罪) 所定刑の懲役と罰金を併科する

併合罪加重 平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、四八条二項、所得税法二三八条二項(懲役刑につき犯情の重い判示第二の罪の刑に法定加重し、罰金は合算額をこえるほ脱税額の範囲で処断する)

換刑留置 前同刑法一八条

懲役刑の執行猶予 前同刑法二五条一項

訴訟費用 刑訴法一八一条一項本文

(量刑の理由)

被告人は二年間で合計約二億円の所得がありながら、そのうちの約一一パーセント強の所得申告をしたのみで正規の税額の約九四パーセントにも及ぶ約八五〇〇万円もの所得税を免れたものであり、脱税額が巨額であること、複数の他人名義で先物取引を行ない発覚を遅らせるなど脱税の方法が巧妙であること、多年にわたり長島町町議会議員の立場にありながら町民の信頼を揺るがせたこと等に鑑みれば、被告人の罪責は重大といわねばならない。

しかし、被告人にはほ脱所得の大半をもたらした商品先物取引による利益が生じたのは平成三年度及び同四年度の二ケ年度のみでこの利益も次年度以降の損失に消えて現に手元に残ってないこと、ほ脱した本税は完納済みであり、重加算税及び延滞税も分割納付中であり、近く完納予定であること、また被告人には交通事故による罰金前科一犯のほか何らの前科・前歴もないことなど、被告人に有利に斟酌すべき事情もあるので、これらを総合考慮して主文のとおり量刑するとともに懲役刑の執行を猶予した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 上本公康)

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